抄録
葉緑体は光合成を行う、植物の生育に重要なオルガネラである。しかし、その形態形成機構について、未だ解明されていない点が多く存在する。その解明を目的に、本研究では葉緑体形成に異常を持つシロイヌナズナの新規な斑入り変異株を用いた、分子遺伝学的な解析について報告する。
この変異株はアルビノ型と野生株様の2種類の子葉を展開する。アルビノ型の子葉を展開した個体は、その後白色の本葉を展開した後、通常の栽培条件下では抽だい前に枯死してしまう。野生株様の子葉を展開した個体は、葉の緑色組織の中に白色のセクター(斑)が入った本葉を展開する。その後現れる本葉は、生育が進むにつれて斑の形成が弱まっていった。光学顕微鏡による葉の断面の観察では、5-31変異株は野生株に比べて細胞の肥大化、1細胞あたりの葉緑体数の減少が観察された。また、5-31変異株の生育時に0.3%濃度のショ糖を添加すると斑の形成が弱まり、添加ショ糖濃度を1%に上げると、その表現型は更に野生株に近づいた。以上のことから、斑における葉緑体の形成にショ糖が重要な役割を果していることが示唆された。また、この変異の原因となる候補遺伝子も単離した。