抄録
(目的)葉緑体ゲノムには、光合成系遺伝子と転写・翻訳系遺伝子など約120の遺伝子がコードされている。そのうちtRNAは20種類のアミノ酸全てに対応しているがアンチコドンでみると30種類しかない。しかし全てのコドンに正確に対応する高度な翻訳システムを構築している。葉緑体バクテリア型RNAポリメラーゼシグマ因子の研究から、葉緑体発達段階ではテトラピロール合成の必須コファクターでもあるtRNA-Gluを含む複数のtRNAがSIG2やSIG6依存的に発現誘導される重要性が示唆された。本研究では、葉緑体発達段階に限らず、tRNAの発現調節は葉緑体においていかに動的であるか、また転写制御以外に調節に関わる分子機構を検証することを目的に実験を行った。(結果)明暗条件では、葉緑体tRNAは核コード遺伝子を含めた光合成系遺伝子等とは逆の挙動を示した。つまり暗条件で増加し、明条件で減少した。この現象はsig2変異株やNEP変異株でも見られたことから転写誘導以外の機構がより重要であることが示唆された。またN(窒素)/C(ショ糖)バランスが崩れてもtRNA発現量は変動することが示唆された。また各種翻訳阻害剤実験では、葉緑体の翻訳系を阻害したときにtRNAは蓄積した。さらにtRNAの成熟に関わるPNPase変異体でも発現量が変動したが、Glu-tRNA合成酵素の過剰発現では変化しなかった。これらの結果をもとに、葉緑体tRNAのダイナミズムと分子機構、その生理的重要性について考察する。