抄録
クロロフィル(Chl)の生合成の最終段階の反応をおこなうプロトクロロフィリド(Pchlide)還元酵素には、進化的起源が異なる二種類の還元酵素、暗所作動型Pchlide還元酵素(DPOR)と光依存型Pchlide還元酵素(LPOR)が存在する。現生の光合成生物における分布などから、DPORが進化的により古く、LPORは酸素発生型光合成の成立に伴って創出されたと推察される。ラン藻Gloeobacter violaceus PCC 7421は、分子系統解析で現生のラン藻の中で最も早い時期に分岐したと考えられる。この推察は、チラコイド膜を欠くこと、他のラン藻に比べChl含量が極めて少ないなどの性質からも支持され、Chl生合成系においても酸素発生型光合成生物の原始的な形態をとどめているかもしれない。そこで、G. violaceusのLPORの酵素化学的性質を検討し、既知のLPORとの比較を行った。推定LPOR遺伝子glr2486をE. coliで大量発現させて精製した。Glr2486蛋白質は、NADPHと光に依存してPchlide還元活性を示し、Pchlideに対するKm値は、0.7 μMであった。この値は、既知のラン藻LPORで最も低い値であった。従って、少なくともPchlideに対する親和性という観点ではG. violaceusのLPORは十分に効率的な酵素であると判断される。