抄録
ラン藻は窒素含量が高く(C:N=5),窒素の獲得と同化に多くのエネルギーを使っているので,窒素源の変動に対する遺伝子発現の応答は,環境適応の中でも特に重要である.アンモニアを窒素源として培養したSynechococcus elongatusの細胞を,窒素を含まない培地に移すと,窒素の獲得や代謝に関与する数多くの遺伝子が転写制御因子NtcAによって活性化されるが,DNAマイクロアレイを用いた解析により,これらに加えてシグマ因子をコードするsyc0015(rpoD6),syc0953 (rpoD4)とresponse regulatorをコードするsyc1148 の発現がそれぞれ1.7倍,12.4倍,8.6倍に上昇することがわかった。これらの遺伝子の上流にはNtcA結合領域が存在しており,syc0015とsyc1148の誘導は完全にNtcA依存的だったが,syc0953は、NtcA欠損株でも窒素欠乏に応答して5.3倍に発現量が増加し、NtcA非依存的な制御機構の存在が推察された。syc0953の欠損株では、NtcAによって直接活性化されるnblA遺伝子の発現量が顕著に低下しておりNtcAが直接的、間接的にこの遺伝子を制御していることがわかった。