抄録
植物体内に取り込まれた無機窒素の約1/3は、アゾ、ジアゾ、ニトロ、ニトロソ、オキシムなどの一連の化合物(窒素が別の窒素と結合した構造または窒素が1個または2個の酸素と結合した構造をもつ)に変換される。これらの窒素は、ケールダール法では定量的に回収できず、未解明窒素(UN)と呼んでいる。
1. UN化合物は当初二酸化窒素由来の窒素で発見されたが、その後硝酸由来の窒素でも同じであることが分かり、UN化合物生成は、窒素代謝の一経路であると考えられる。メタボロームによる網羅的解析や生物普遍性は今後の課題である。
2. シロイヌナズナ葉で明らかとなったUN化合物には、チアジアゾール環化合物、ニトロ化合物(タンパク質ニトロチロシン)、N-ニトロソピロール化合物、S-ニトロソ化合物などがある。SciFinderに記載のない化合物もあった。これらの植物種共通性は未知である。
3. 個々のUN化合物の機能については、SAR誘導活性などが見出されているが、大部分は未解明である。
4. 外在活性窒素としての大気中窒素酸化物は、植物の成長、養分吸収、代謝を包括的に活性化するシグナルとしての作用(バイタリゼーション作用)をもつが、それを担う物質的実体とUN化合物との関連は、未知である。
本研究で、ご指導いただいた鈴木仁美京都大学名誉教授、平田敏文広島大学教授、藤田耕之輔広島大学教授に厚くお礼申し上げます。