抄録
植物のゲノムにおいては、メチル化されたシトシンの大部分はトランスポゾンなどの反復配列に分布する。シロイヌナズナのマイクロアレイを用いた最近の報告でも、この傾向が確認されている(Lippman et al, Nature 430, 471-; Zhang et al, Cell 126, 1189-)。私達は、DNAメチル化の働きを知るため、シロイヌナズナのDNA低メチル化突然変異で誘発される発生異常を連鎖解析するというアプローチをとってきた。このようなアプローチで同定された遺伝子座の一つはトランスポゾンの挿入突然変異だった。こうして同定されたトランスポゾンは野生型では転移が観察されないが、DNAメチル化酵素遺伝子の突然変異下で転移抑制が解除される。DNA メチル化がトランスポゾンを抑制することによりゲノム構造の安定に貢献していることがわかる。他の二つの発生異常の原因遺伝子は、インプリント遺伝子と細胞周期制御遺伝子であり、これらの遺伝子の発現の乱れが世代を越えて継承されるため、突然変異のようにふるまっていた。これらの奇妙な現象をゲノム動態との関連で考察する。