抄録
常温で育てたイネ(あきたこまち)の幼苗全体を10°C前後の低温に1週間程度曝しても可視的な障害を起こすことはない。ところがその時に根の温度を高く保つと2、3日で葉に白化が起こり、その後枯死に至るような顕著な障害が葉に広がる、それに先立ち光合成電子伝達機能に著しい障害が起こるという、従来知られているものとは異なる低温障害(高地温依存性低温障害)を前回報告した。この障害の原因は根からの過剰水分供給にあると考えこの障害と水耕液との関係について検討したところ、実は水ではなく硝酸イオンが密接に関係していることがわかった。また、Dual-PAM等を用いて光合成電子伝達系に及ぼす影響を比較検討した結果から、1日の高地温低気温処理により光化学系IIと光化学系Iの間に障害が明暗に関係なく起こり、この間の電子伝達がブロックされることが、その後の可視的な障害を起こす引き金になっているものと結論した。高地温依存性低温障害の初期障害部位及びその硝酸イオンとの関係についても議論したい。