抄録
我々はこれまで、硫黄欠乏条件下において葉緑体酸性スルフォ脂質、スルフォキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)が分解され、細胞内に硫黄原子を供給することを、単細胞緑藻クラミドモナスを用いて明らかにした。本研究では、硫黄欠乏条件下における膜脂質の代謝変動を調べた。その結果SQDGの分解に伴って葉緑体酸性リン脂質、フォスファチジルグリセロール(PG)がSQDGの欠失に見合う程度増加していた。このPG量の変化はPG合成活性の誘導により引き起こされていた。この結果から、硫黄欠乏条件下において葉緑体酸性脂質の総量が維持されることの重要性が示唆された。一方PG量が増加しているSQDG欠損変異体では、通常培養条件下においてもPG合成活性が高まっていた。このことから、硫黄欠乏条件下で観察された野生株のPG合成活性誘導は、硫黄欠乏ではなくSQDG量の減少によりもたらされると考えられた。続いてPG合成誘導の意義を明らかにするために、硫黄欠乏状態の野生株から単離したチラコイド膜をホスホリパーゼ処理し、増加したPGを分解したところ、光化学系Iの活性低下が観察された。この結果から、硫黄欠乏条件下で観察されたSQDG量の減少に対するPG量の補填が、光化学系I活性の維持に貢献する可能性が考えられた。