抄録
ALMT1遺伝子がコードするAl活性化型リンゴ酸トランスポーターは、アルミニウム(Al)存在下でリンゴ酸を放出しAlを排除することでAl耐性をもたらす。日本で育種されたコムギ品種では、Al耐性度は、リンゴ酸放出量と相関があるものの、ALMT1発現量との相関が低いことから、ALMT1の転写後調節機構の存在が示唆されていた(Sasaki et al., 2006)。本研究では、日本のコムギ品種におけるALMT1の転写後調節機構の解明を目的に、同一品種であるがAl耐性度が異なる2系統を用いて、比較解析を行った。Al耐性系統は、Al感受性系統よりも根端のAl集積量が低く、Alで活性されるリンゴ酸放出能も高いことから、リンゴ酸放出に依存した高いAl排除能力を持つと考えられた。一方、根端におけるALMT1遺伝子およびタンパク質の発現量を比較したところ、両系統間に差が認められないことから、これら系統ではALMT1タンパク質の機能発現が、翻訳後の修飾や他の因子の関与等により異なる可能性が示唆された。さらに、両系統の交雑を行い、F2種子を用いて幼植物におけるAl耐性度を調べたところ、Al感受性とAl耐性の個体数が1:3に分離した。以上の結果から、ALMT1タンパク質の機能発現調節には、少なくとも一つの遺伝子が関与すると考えられた。