抄録
1864年にRautenbergとKuhnは、窒素源が根粒形成を阻害する現象を見出した。以来、この現象について、ダイズやミヤコグサ(Lotus japonicus)より単離された根粒過剰変異体(har1等)が根粒形成において、硝酸イオンに対して耐性を示す等が知られている。しかしながら窒素源による根粒形成抑制の分子メカニズムはほとんど解明されていない。
マメ科モデル植物ミヤコグサでは、HAR1が根粒形成の全身的制御機構に関わっていることが知られている。当研究室の岡本は、ミヤコグサのゲノム情報より特定された32種のLjCLE遺伝子のうち、LjCLE1, LjCLE2が根粒菌感染により顕著に発現が誘導され、HAR1依存的に根粒形成を抑制することを見出した。そこで本研究では、har1変異体の根粒形成における硝酸イオン耐性に注目し、KNO3の処理によって発現が誘導されるLjCLE遺伝子の探索を行った。
その結果、32種のLjCLE遺伝子のうち、LjCLE2のみが10 mMのKNO3処理によって顕著に発現が誘導された。また、この遺伝子は根粒菌感染により速やかに発現が誘導されるが、10 mM KNO3の存在下では根粒菌の感染を受けても発現の上昇は見られなかった。以上の結果から、KNO3がLjCLE2の発現を誘導し、HAR1を介して根粒形成を抑制するというモデルが示唆された。