抄録
我々はこれまでに、イネの不定根(冠根)数が著しく減少する突然変異体crown rootless1 (crl1)の原因遺伝子を単離・解析した結果、CRL1遺伝子はAUX/IAAおよびARFタンパク質によるオーキシンシグナル伝達系の下流に位置する転写因子をコードすることを明らかにした。さらに冠根形成の制御機構を解析するために新たな突然変異体の作出・選抜を試み、冠根欠損型突然変異体を複数得た。このうちcrl4変異体は、側根数の減少や重力屈性の異常といったオーキシン関連の異常な表現型も観察され、またその原因遺伝子CRL4はシロイヌナズナにおいてオーキシン排出キャリアーであるPIN1のリサイクルを制御していると考えられているGNOMと相同性の高い遺伝子をコードしていた。一方、crl5変異体はcrl1変異体と同様に冠根原基のinitiationが阻害されるが、野生型に比べ著しく少ないものの、いずれの変異体も成熟に伴い冠根を形成する能力を有していた。しかしこれらの二重劣性型個体では成育後期においても全く冠根形成は認められなかったため、CRL1とCRL5遺伝子は冠根形成制御に関して全く同一の経路では機能していないと考えられる。今回の発表ではこれらcrl変異体の解析から明らかになってきたオーキシンの輸送およびシグナル伝達と冠根形成との関わりについて報告する。