抄録
光化学系II(PSII)におけるチロシンYDは、P680の副次的電子供与体として働く。YDは、P680+によって酸化されるとプロトンを放出し中性ラジカル(YD·)となることから、この反応において、YD周辺の水素結合ネットワークが重要な役割を果たしていると考えられる。我々は、前回の年会において、YDの水酸基には2つの水素結合が形成されているというフーリエ変換赤外(FTIR)法による結果を報告した。今回は、同手法を用い、YDと近傍水分子との相互作用について調べた。シアノバクテリアT. elongatusのPSIIコア複合体を用いて、光誘起YD·/YDFTIR差スペクトルを測定した。弱い水素結合を持つOH基の伸縮振動領域には、3636/3617と3594/3584 cm-1にピークが検出され、これらはH218O置換によって低波数シフトを示した。この結果から、これらのピークが水分子の振動に由来し、少なくとも2つの水分子がYDと相互作用を持つことが示された。PSIIのX線結晶構造によると、YDと水素結合を形成するのに適当な位置に存在しているアミノ酸側鎖はD2-His189のみである。従って、YDのもう1つの水素結合は、これらの水分子のうちの1つと形成されている可能性が示唆される。この水分子は、YDの酸化還元電位の調節、及びプロトン放出反応において、重要な役割を果たしていると考えられる。