抄録
Agrobacteium rhizogenesの腫瘍化遺伝子rolBは形質転換植物細胞を根に分化させる機能を持つが、その分子機構はよく分かっていない。我々は、35Sプロモーターで過剰発現するrolBを導入したタバコBY-2細胞は、増殖能が低下しデンプン粒が蓄積することを見出した。一方、非形質転換BY-2細胞はオーキシン枯渇時にデンプン粒を蓄積し、サイトカイニン添加で促進されることが知られている。そこで、rolB形質転換BY-2細胞のデンプン粒蓄積が同様な機構で起こるのか調べた。BY-2細胞からRNAを単離し、定量RT-PCR法でデンプン合成及び分解系の遺伝子の転写レベルを測定した。オーキシン枯渇時の非形質転換BY-2細胞では、ADP-glucose pyrophosphorylase、granule-bound starch synthase、starch branching enzyme遺伝子のいずれも転写促進され、デンプン合成系が活性化されるが、rolB形質転換細胞ではこれらの遺伝子の転写促進は見られなかった。一方、デンプン分解系のα-amylase、β-amylase、α-1,4-glucan phosphorylase遺伝子の転写産物を調べた結果、α-amylase遺伝子の転写産物が減少しており、その転写抑制が考えられた。また、rolB形質転換BY-2細胞のα-amylase活性の低下も確認された。以上より、rolB形質転換BY-2細胞のデンプン粒蓄積にはデンプン分解系抑制の関与が示唆され、培養細胞のメリステム形成に先立つ組織のデンプン粒蓄積に類似していると思われる。