抄録
植物におけるタンパク質の動的代謝を網羅的に明らかにするために,シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)におけるアミノ酸およびタンパク質のturn-over速度を,15NH4+のタンパク質への取り込み率の経時変化から解析した。
(15NH4)2SO4を含むMS培地で10日間培養したシロイヌナズナ培養細胞のタンパク質を抽出し,SDS-PAGEで分画した。上から2mmずつ切り出したゲルをトリプシンでゲル内消化し,MALDI-TOF MSで網羅的に解析した。得られたMSスペクトルから各タンパク質が15Nラベルされている度合を解析し,turn-over速度を算出した。その結果,1)同じ生合成経路を辿るアミノ酸は同程度の速度で代謝されること,2)Ser, Thrなど翻訳後修飾の受けやすいアミノ酸のturn-over速度は大きいこと,がわかった。また,光合成経路に関わる酵素群ではturn-over速度は速く,構造タンパク質群ではturn-over速度は遅かったことから,同一代謝経路に関わるタンパク質は似通った速度でturn-overしていることも示された。さらに,シロイヌナズナとイネ(Oryza sativa)由来タンパク質のアミノ酸配列同一性とturn-over速度には相関があることが明らかになった。これらのことから,翻訳後修飾により損傷を受けやすいタンパク質群は速い速度で作り替えられることで,機能の失活を防いでいることが示唆された。