抄録
脂質の代謝回転や作り替えは動物では詳しく調べられてきたが,植物など光合成生物では合成の研究に重点が置かれ,分子の作り替えや交換などの知見は乏しい.本研究では,安定同位元素であるC13を用いて光合成によりシアノバクテリアの細胞をラベルし,脂質分子の代謝回転と作り替えに関する知見を得ることを目的とした。材料としては,糸状性のAnabaena variabilis M3株と単細胞性のSynechocystis sp. PCC 6803株を用いた。脂質の分画は,TLCと硝酸銀添加TLCにより行った。糖脂質のC13を含むisotopomerの分析にはMALDI-TOFを用い,質量スペクトルの解析には,独自ソフトウェアC13distとperlスクリプトを用いた。2時間のラベル反応では,新規に合成された脂質分子が9割以上の高いabundance(濃縮比)でラベルされた。その後のチェイスでは,速やかにラベルが希釈されたが,5%程度の低い濃縮比でラベルされた分子集団が出現した。これは,一度他の物質に取り込まれたC13が再度放出されて脂肪酸合成に利用され,それを取り込んだ脂質分子が作られたと考えられる。さらに,チェイスの後の脂質isotopomerの分布はチェイス前とほとんど変わらず,脂質分子の作り替え(脱アシル化と再アシル化)がほとんど起きていないことがわかった。