抄録
降雨などで土壌の湛水状態が続くと、土壌中の酸素濃度と酸化還元電位が低下し、畑作物の根は酸素欠乏を引き起こし、しばしば湿害が発生する。このような湛水土壌で、根の通気組織の形成と根外への酸素漏出(Radial Oxygen Loss)を防ぐROLバリアの形成は根の酸素欠乏を防ぐ重要な形質であると考えられている。
我々は、テオシントの一種であるZ. nicaraguensisとトウモロコシとを用いて、嫌気条件に適応する根の機構について解明することを目的とした。成長解析を行ったうえで、嫌気条件での根の通気組織とROLバリアの形成について解析した。その結果、テオシントはトウモロコシよりも高度に通気組織を発達させていた。さらにテオシントは根外への酸素漏出を防ぐROLバリアを形成したが、トウモロコシはROLバリアを形成しなかった。したがって、テオシントは嫌気的な環境に順応するために、高度に通気組織を形成し、さらにROLバリアを形成することで、根端へ酸素を効率的に輸送させ、耐湿性を高めていることが示唆された。現在、根の表層細胞におけるアポプラスティックバリアーについて組織化学的解析を進めている。
なお、本研究は、農研機構・生研センターのイノベーション創出基礎的研究推進事業の助成により推進された。また、種子を分譲していただいた農研機構・畜産草地研究所の間野吉郎博士、大森史恵氏に感謝の意を表する。