抄録
低温に曝されたイネでは、組織において著しいショ糖量の変動が起きる。フルクタンはショ糖を基質として液胞内に蓄積する多糖であり、耐乾性や耐凍性に関与する。コムギの1-SSTを導入したイネ(I22)では、本来イネにはないフルクタンが蓄積し、耐冷性が向上する(川上ら、J.Exp.Bot. 2008)。このI22を利用して耐冷性における糖代謝の役割を明らかにする目的で、前大会までに穂ばらみ期イネにおいて低温下でのショ糖輸送タンパク質遺伝子(OsSUT)やショ糖分解酵素遺伝子の発現変化を報告してきた。本年は、ショ糖合成酵素遺伝子(OsSPS)の発現変化を組織別にReal-time PCRにより解析した。解析の結果、OsSPS1を除くOsSPSsの発現量は、低温処理中のソース葉とその葉鞘で減少し、幼穂においては全てのOsSPSsの発現量が増加していた。ショ糖量はそれとは逆にソース葉とその葉鞘において低温下で増加し、幼穂においては減少した。OsSPSs発現量変化とショ糖蓄積量変化には相関がみられなかったことから、低温下におけるショ糖量変化にはOsSUTやショ糖分解酵素遺伝子が関与していると推察する。また、OsSPSsの発現変化および量はI22と非形質転換体で差異はなかった。低温下におけるイネのショ糖の合成や分解、輸送変化と別のスクロース代謝経路を備えた形質転換体の耐冷性機構を総合的に考察する。