主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第42回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 42
開催地: 仙台
開催日: 2021/12/09 - 2021/12/11
【目的】
本邦における医薬品の製造販売承認申請(NDA)のタイミングは通常申請企業が決定するが,マクロの視点では本邦における開発の開始時期や臨床試験の期間により決まる。一方,世界一の医薬品市場である米国(US)での上市を優先することがあり,これが結果的に日本とUSのNDAのタイミングに差(申請ラグ)を生じさせる要因とも言われている。
USの開発促進制度(EP)は米国において重篤または死亡の恐れのある疾病でUnmet Medical Needsを満たす治療薬が対象であるにも関わらず,希少疾病用医薬品に指定された抗がん剤では,US-EPであるBreakthrough Therapy(BT)に指定されることが日米の申請ラグを有意に短縮する因子であることが報告されており,各国のEPが他国の開発期間に影響していることが推測される。今回我々はBTを含む5つのタイプのUS-EPが希少疾病用医薬品に指定された抗がん剤に限らず,申請ラグに影響を与えているとの仮説を立て研究し,申請ラグを減らす提言に向けた知見を得ることを目的とした。
【方法】
2012年1月から2019年12月の間に新有効成分含有医薬品として本邦で承認された328品目を研究対象とした。対象品目のうち,1) ワクチン,2) 2020年9月時点で米国にて承認されていないまたは同じ適応症がない,3) 緩和療法,支持療法または診断薬,4) 解析に必要な情報が得られなかった品目,5) 未承認薬・適応外薬検討会議からの要請による承認品目を除外した。2群比較にはマンホイットニーのU検定を用いた。
【結果・考察】
解析対象となった168品目における申請ラグの中央値は11.5ヶ月(interquartile range [IQR] : 3.2-39.7)であった。US-EPのうちBTに指定された品目の申請ラグの中央値は7.4ヶ月(IQR: 3.3-16.8)であり,BTに指定されていない品目に比して申請ラグは有意に短縮していた(P=0.025)。それ以外のUS-EPでは有意差は認められなかった。
【結論】
本研究結果から,BTに指定されることで,希少疾病用医薬品に指定された抗がん剤に限らず,ワクチン以外のグローバル開発された医薬品では申請ラグが短縮することが示され,US-EPは申請ラグに影響を及ぼす要因であることが明らかとなった。本邦の先駆け指定制度や欧州のPRIME制度など,自国・他国のEP制度が申請ラグに影響を与える可能性があると考えられることから,相互影響など検討し,今後の開発戦略への提言につなげたい。