主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
【背景】臨床試験は新薬・新医療機器等の開発のみならず診療の最適化においても必要であり、文部科学省と厚生労働省は継続して臨床試験の活性化に取り組んできた。臨床試験の成功率を上げるために、臨床試験の受託前に、被験者となりうる患者の数(候補患者数)の見積もり調査が実施される。このような調査を行っているにも関わらず、調査に十分なリソースが割けないなどの理由から見積もりの精度が低くなり、臨床試験開始後に想定通り被験者が集まらないケースがある。このことが、臨床試験全体の遅れや中止による医薬品開発費の増大や科研費等の浪費につながっている。そこで、電子カルテのデータを用いた機械的な絞り込みを行うことによって被験者の候補者数の見積もりを効率化することで、被験者が想定通り集まらない事態を回避できるのではないかと考え、検討を行った。【目的】本研究では、電子カルテのデータを用いた機械的な患者絞り込みによって、候補患者数の見積もりが効率化されるか検討することを目的とした。【方法】一型糖尿病および潰瘍性大腸炎の臨床試験を対象とし、適格基準を満たす患者を以下の2つの方法で抽出した。(1)電子カルテのデータを用いた機械的な絞り込みを実施する。(2)臨床研究コーディネーター(CRC)によるカルテ調査を実施する。本研究では、(2)の方法で抽出された患者群を正解データとし、(1)の機械的な絞り込みの精度を求めた。【結果・考察】一型糖尿病では感度が37.5%となり、本来被験者候補とすべき症例をすべて網羅することができなかった。一方、潰瘍性大腸炎では感度が100%となり、被験者候補とすべき症例を漏れることなく抽出し、加えてカルテ調査をすべき症例数を約1/10に絞り込むことに成功した。このことから、CRCによるカルテ調査の前に機械的な絞り込みを実施するという運用を想定すると、被験者候補の抽出に要する時間を約1/10に短縮できる計算となった。【結論】潰瘍性大腸炎では、電子カルテのデータを用いた機械的な絞り込みが成功し、候補患者数の見積もりの効率化につながる結果が得られた。一方で、一型糖尿病に対する適応は困難であった。今後本研究手法の適合性を高めるために、成否に影響を与える疾患、臨床試験または適格基準の特徴について更なる調査と分析が必要である。