主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
ヒトの肺胞は径0.1-0.2mmほどで,肺胞腔内の大気と肺胞壁の毛細血管内の血液・赤血球との間のガス交換の場である.肺胞壁にかかる表面張力は,肺胞上皮細胞が分泌する肺サーファクタントにより和らげられ,円滑な呼吸運動につながる.肺胞内に分泌された肺サーファクタントは肺胞上皮細胞に再吸収されるか,肺胞マクロファージに貪食・代謝される.肺胞蛋白症(PAP)は,肺胞マクロファージの機能低下により,肺胞内に肺サーファクタント由来物質が蓄積しガス交換が阻害され呼吸不全に至る疾患である.PAPの92%は抗GM-CSF自己抗体による自己免疫性PAPであり,7%が骨髄異形成症候群のような血液疾患等に合併する二次性PAP,1%未満が先天性(遺伝性)PAPである.PAPの標準治療は,全身麻酔下に行われる全肺洗浄である.一側肺に温生理食塩水を1回に0.5~1L注入・排液し20-40回程度繰り返す.手術室と熟練したスタッフが必要な処置である.1999年の中田らによるPAP患者での抗GM-CSF自己抗体の発見以後,GM-CSF投与による新規治療研究が行われてきた.まず1990年代から2000年代に皮下注射が試みられ,奏効(PaO2 10 mmHg以上の改善)例は5割程度で,ついで吸入治療が試みられてきた.肺局所での抗体とGM-CSFのバランスをGM-CSF側に回復させることを目的に,1日1-2回,125-250μgのリコンビナントヒトGM-CSF(rhGM-CSF)製剤を隔週で3-6ヶ月間,ネブライザーで吸入するもので,外来診療で行える.本症は稀少疾患のため,十分な症例数での臨床研究が困難であったが,米国での後方視研究(12例)や本邦での第2相試験(35例)での結果から,皮下注射より総用量が少なくより多い奏効例を得られる可能性が示された.最終的にランダム化二重盲検比較試験として,本邦12施設での医師主導治験(PAGE試験, 2群64例, 酵母由来rhGM-CSF製剤)と18ヶ国30施設での国際共同治験(IMPALA試験, 3群138例, 大腸菌由来rhGM-CSF製剤))が行われ,重篤な有害事象なく,酸素化指標の改善やQOLスコアの改善がみられた.これらの結果をもとに,本邦でも酵母由来rhGM-CSF製剤に関して,製造販売承認申請の準備が進められている.今後,検討が必要な課題として,ネブライザーの種類(ジェットネブライザーとメッシュネブライザー)による吸入効率の比較,隔週投与と連日投与での有効性と有害事象,吸入期間(6ヶ月より長い方が有効性が上がる可能性),などがあげられる.