主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
ミトコンドリアは生体の細胞内エネルギー産生の90%以上を担いその機能異常はATPの減少により様々な病態を引き起こす。ミトコンドリア病と聞くと小児に好発する疾患(MELAS、Leigh脳症など)を思い浮かべるが(狭義のミトコンドリア病)、難聴、ALS、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病、過敏性腸症候群、癌など多くの疾患でミトコンドリアの異常が報告されている(広義のミトコンドリア病)。またCD8+T細胞の活性化にはT細胞ミトコンドリア活性が重要でありPD-1阻害抗体の治療効果を増強させることが知られている。さらに近年超高齢化に進む日本では低下したミトコンドリア機能を回復させることこそがQOLを維持した健康寿命をもたらす"セントラルドグマ"である。しかし現在までに保険適応が通ったミトコンドリア病治療薬はタウリンしかなく新薬の開発が進んでいない。
我々は植物ホルモンのAuxinとして知られるインドール酢酸をリード化合物としたインドール化合物MA-を5に細胞内ATPを増加させる作用があることを見いだした。MA-5はATP合成酵素の2量体形成の促進、MICOS複合体の重合を促進し、ミトコンドリアダイナミクスの改善をもたらした。さらにMA-5は遺伝的背景の異なる様々なミトコンドリア病患者由来皮膚線維芽細胞25名中24名の細胞で酸化ストレス下における細胞死亡率を改善させた。本研究はAMEDの「橋渡し研究」・「難治疾患対策事業」・「革新的医療シーズ実用化研究事業」の支援を受け非臨床試験が終了し、現在、AMEDムーンショットプログラムの支援のもと第1相臨床試験が昭和大学薬理学研究所(責任医師三邊武彦先生)において行われている。
大学からの創薬は臨床、研究、教育のエフォートをおこないながら、基礎研究(化合物の探索、生理活性の確認、最適化、大量合成)、GLP非臨床試験並びにPMDAとの相談等、さらに知財の確保と維持、企業との交渉にもあたらなくてはならない。そのためには臨床研究推進センター(本件の場合は東北大学病院CRIETO)や特許戦略・知財管理を行うTLO(本件の場合は東北テクノアーチ)の連携が必須である。日本から世界発の新薬を発信するためには研究費等の財政的支援は勿論ながら、上記のような創薬の包括的な支援の拡充が今後も期待される。