日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第43回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 43_3-C-S40-4
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シンポジウム
新しい造血器腫瘍治療薬の体内動態、有害事象とそのマネジメントにおける薬剤師の役割
*五十嵐 敏明
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抄録

造血器腫瘍の治療法は近年大きく変化してきている。治療効果の最大化と有害事象の最小化のために、核酸誘導体、アントラサイクリン、ビンカアルカロイド等のいわゆる殺細胞性抗悪性腫瘍薬をいかに上手く組み合わせるか、さらには造血細胞移植をどのように活用するかが従来からの大きな課題であった。そんな中、分子標的薬であるイマチニブとリツキシマブの登場は造血器腫瘍の治療に大きなインパクトを与え、その後も次々と新たな薬剤や治療法が実用化されてきている。大きく分類すると、チロシンキナーゼ等をターゲットとした低分子型分子標的薬、表面抗原等に結合するモノクローナル抗体製剤、キメラ抗原受容体 (CAR) をコードした遺伝子を患者のT細胞に導入するCAR-T療法、殺細胞性薬剤の進化型等である。

 新たな薬剤は、治療成績の向上をもたらし、選択肢の幅を広げたものの、特徴的な体内動態や副作用に注意が必要なものがある。Cytochrome P450で代謝されるため薬物間相互作用に注意が必要な低分子型分子標的薬は少なくない。抗体製剤は高分子蛋白でありinfusion reactionのリスクがある。サイトカイン放出症候群はCAR-T療法で最も注意が必要な有害事象の一つである。

 治療薬の体内動態や有害事象のマネジメントにおいて、薬剤師が貢献できることは数多く存在する。病態時の体内動態や薬物間相互作用を考慮した投与設計は、薬学的管理における基本項目の一つであり、薬剤師職能を発揮しやすい場面である。使用目的や有害事象に関する患者への情報提供は、治療アドヒアランスの向上や有害事象の早期発見に有用と考えられ、薬剤師が貢献可能な領域といえる。近年の治療薬は有害事象の管理のためにモニタリングが必要な項目が増えてきており、これらの医薬品情報を整理し、医師や看護師などのスタッフへ情報を提供することは、薬剤師の重要な業務の一つである。サリドマイド誘導体の承認条件である安全管理手順において、薬剤師が担う役割は大きい。外来の治療では、スケジュールや有害事象についての情報共有など、保険薬局との連携も望まれる。

 臨床応用されて間もない医薬品は今後さらに情報を蓄積し育薬していく必要があるが、従来からある殺細胞性薬剤についても新たな知見が得られる可能性がある。日常診療における医薬品適正使用や新たなエビデンスの創出において、さらなる薬剤師の活躍に期待したい。

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