日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_1-C-P-B2
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一般演題(ポスター)
抗体医薬品の血中濃度データに着目した標的介在性薬剤消失モデルパラメータの識別可能性
*松田 和樹長谷川 千尋青山 隆彦辻 泰弘
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抄録

【目的】抗体医薬品の血中濃度推移は、低濃度域では標的介在性薬剤消失 (Target Mediated Drug Disposition; TMDD) による非線形の消失を示すことが知られている。従って、抗体医薬品の薬物動態パラメータを詳細に評価するには血中薬物濃度のみならず標的抗原の濃度を測定することが必要である。一方で、バリデートされた両測定系の作成等には時間や資金を要することが課題となっている。本研究では報告されているデノスマブ(標的抗原:Receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand; RANKL)のTMDDモデルを用い、その血中薬物濃度データのみでTMDDに関連するパラメータを推定できる場合があるという仮説を立て、TMDDモデルのパラメータの識別可能性について評価することを目的とした。

【方法】ベースシナリオ(用量:0.6-180 mgの6用量、被験者数:1用量あたり6例、採血時点:投与後28週までの24時点、投与経路:静脈内投与)から試験デザインを変化させることで複数のシナリオを設定し、各パラメータの識別可能性をStochastic Simulation and Estimation (SSE) により評価した。シミュレーション回数は200回とし、識別可能性の評価にはRelative Estimation Error (REE=[Est-True]/Est)、バイアス(REEの平均)および推定精度(REEの標準偏差)を用いた。

【結果・考察】ベースシナリオにおけるパラメータのバイアスはいずれも5%未満であり、推定精度は17.1-53.4%であった。消失半減期の約3倍を経過した投与後8週までの採血時点(12時点)まで減らした場合、バイアスはいずれのパラメータも7.5%未満、推定精度は19.3-59.8%と同程度であった。採血時点数を12時点のまま3用量まで減らした場合、複数のTMDDパラメータでバイアスおよび推定精度はいずれも100%以上となり、パラメータの識別可能性は低いことが示唆された。一方で、3用量でも1群当たりの被験者数を12例以上とした場合、バイアスはいずれのパラメータも11.1%未満、推定精度は100%未満となり改善がみられた。

【結論】RANKLを標的とするデノスマブでは、試験デザインを工夫することにより、血中薬物濃度のみでTMDDパラメータは識別可能であることが示された。今後は、標的抗原のプロファイル(代謝回転速度や発現量)がRANKLとは異なる抗体医薬品まで研究を拡張する予定である。

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