主催: 日本臨床薬理学会
ヒトへ初めて治験薬を投与する健康成人を対象としたFirst in Human (FIH) 試験は、被験者の安全確保のため、幾重にも対策を講じた上で実施に至る。そのため、命にかかわるような重篤な有害事象というのは非常にまれである。しかしながら、これまでそのような事例がなかったわけではない。例えば、2006年3月に英国で実施したTGN1412試験、2016年1月にフランスで実施したBIA10-2474試験が挙げられる。
TGN1412試験の重篤な有害事象発生時に英国で臨床試験に携わっていた演者は、非常に衝撃を受け、他人事とは思えぬ心境で経緯を追った。本試験の有害事象の原因については、現在までに多くのことが判明しており、再発防止対策も十分とられてきた。
にもかかわらず、その約10年後、フランスで実施した健康成人を対象とした初期臨床試験で、今度は死亡例を含む重篤な有害事象が発生した。本試験で起きた事象は、TGN1412試験とは性質が異なり、いまだ未解明な部分も多い。本事象の予測や予防がどの程度可能であったのかは議論の余地があるが、適切な再発防止対策を考えるに十分なだけの情報がないのも現状である。
日本でのFIH試験実施の在り方を考えるにあたり、再度これらの試験を振り返り、事故後の経緯などについても言及する。