主催: 日本臨床薬理学会
【背景・目的】近年、メトトレキサート(MTX)や分子標的治療薬を用いた関節リウマチ(RA)症例におけるリンパ増殖性疾患(LPD)の発生増加が懸念されている。LPDのリスク因子として、MTXや分子標的治療薬の使用が示されているが、リスク増加につながる併用薬物の情報には不足する点も多い。本研究では、米国食品医薬品局が公開している大規模自発報告有害事象データベースであるFDA Adverse Event Reporting System (FAERS)を用いて、RA患者におけるLPD報告に関して使用薬物等の観点から検討を行った。さらに、RA症例におけるLPD報告を国別に集計し、日本と諸外国におけるLPD報告の比較を行った。【方法】1997年から2019年のFAERS(JAPIC AERS)を用いて、RA症例を対象としたLPDの不均衡分析によりLPDの粗報告オッズ比(cROR)を網羅的に集計した。RA症例での年齢、性別、治療薬剤の影響に関する多重ロジスティック回帰分析を実施し、各調整オッズ比(aROR)を算出した。自発報告データを用いた薬物間相互作用の種々の解析手法を用いてLPD報告に関するMTXと他の医薬品との相互作用解析を実施した。日本と海外のLPD報告件数の比較はDEMOテーブルを元に集計した。【結果・考察】MTXやプレドニゾロン、タクロリムスなど多くのRA治療薬においてcROR値が有意に高値を示した。多重ロジスティック回帰分析の結果、高年齢やMTX、シクロホスファミドなど一部の免疫抑制薬使用時にaRORが有意に高値を示した。MTXと併用した医薬品の薬物間相互作用解析では、MTXと、タクロリムスやプレドニゾロン等の複数のRA治療薬併用時に、Ω shrinkage mesure modelおよびAdditive modelに基づく薬物間相互作用シグナルを認めた。日本からのLPD報告は全体の約7割を占め、FAERSでの国別報告割合として最も高かった。【結論】本解析により、MTXの使用とLPD報告に強い関連を認め、MTXと併用した特定の薬物は、LPD報告の増加に関連することが示された。日本のRA患者のLPD報告が諸外国に比べ多いことをFAERS解析として初めて示した。自発報告データには、報告バイアスなど様々な限界があるため、本解析結果は仮説として捉え、検証研究等と併せて解釈することが必要である。