抄録
インシデントレポートの分析は,件数の集計や特出した事例の個別分析が主流である.通常,インシデントレポートには,事例の内容を示したテキスト文章があるが,これらのテキスト文書の分析方法は確立していない.本研究では,テキスト分析の深化を通じた現場の分析者の支援を目指し,自己組織化マップを用いて,インシデント要因の可視化に取り組んだものである.
この研究は,A病院の2020年4月1日~2021年3月31日に提出されたインシデントレポート総数4505件を研究対象とした.本論文では,事例の具体的内容を入力したテキスト文書を用いて,自己組織化マップの手法を適用した.
生成された自己組織化マップは,「薬剤(処方)」「薬剤(内服・点滴)」「胃管自己抜去」「点滴自己抜去」「採血・検査」「同意書の不備」「ユニフォームに薬が入っていた関連」の7つに分けられた.他方,通常のインシデント分析で頻出する「転倒・転落」が抽出されなかった.このように,従来の分析では得られない傾向を見出すことができた.こうした傾向が得られたのは,自己組織化マップが,頻出単語をベクトル化するという分析の特徴から,類型パターンと非類型パターンを分類することに起因すると考えられる.
本研究の結果から,自己組織化マップを用いたインシデント要因の可視化は,医療の複雑な状況と膨大な情報を整理し客観的に示すことに貢献できることが示唆された.