社会学評論
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「良心的支持者」としての社会運動参加
薬害HIV感染被害者が非当事者として振る舞う利点とその問題状況
本郷 正武
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2011 年 62 巻 1 号 p. 69-84

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抄録

本稿は,いわゆる「薬害HIV」感染被害者たちが,強い偏見と差別の最中,どのようにして訴訟運動に参加しえたのかを,社会運動論,とりわけ「良心的支持者」概念の観点から考察する.
HIVが混入した非加熱濃縮血液製剤により血友病患者がHIVに感染した「薬害HIV問題」は,国と製薬会社を相手取った「薬害HIV訴訟」へと発展した.しかし,偏見と差別が渦巻く状況下で,感染被害者たちはHIV感染告知をめぐる医師との「すれ違い」があったり,血友病患者会などでの人間関係が破砕されていた.このような訴訟運動への参加の障壁が高い中で,感染被害者たちはいかにして訴訟運動にコミットできたのであろうか.
ある訴訟運動を支援する会は「当事者性の探求」を掲げ,たんに感染被害者のプライバシーを守るだけでなく,無自覚に感染被害者をいたたまれない状況に追い込まないことをめざした.このような活動理念は,「当事者捜し」を回避し,運動から直接の利益を得ないにもかかわらず運動参加する「良心的支持者」として感染被害者が振る舞うことを可能にした.このことは,問題の深刻さを示すとともに,感染被害者がより安全な形で運動参加する方法をも提示している.本事例で示した良心的支持者概念の戦略上の「転用」は,いわゆる「当事者」概念と同様に,「誰が良心的支持者になる/なれるのか」という問いについても論題が開かれていることを示すものである.

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© 2011 日本社会学会
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