2025 年 76 巻 1 号 p. 63-78
デュルケーム社会学に学びつつ,その知見をイスラームの現状分析や革新に適用するという,特異な試みがかつてなされた.トルコ近代を代表するナショナリスト・社会学者,ズィヤ・ギョカルプ(1876-1924)の試みがそれである.本稿は彼のイスラーム論を解読し,その言説がデュルケーム受容史上いかなる意義を有するのかを検討する.
まず近代社会への進化の動因を社会的分業に求めたギョカルプは,分業が宗教=イスラームに独自の公共的な機能領域の画定をもたらすと主張する.そして儀礼論を通じて,宗教に固有な社会的機能とは信仰によるネイションの統合・連帯であると説き,この見方をイスラームの伝統思想であるスーフィズムへと架橋した.
ギョカルプはさらに,オスマン帝国における政治権力との癒着がイスラームの信仰と礼拝への機能的純化を妨げてきたとしてイスラームの革新を唱え,当時の政権に両者の分離を可能にする制度改革の提言を行った.
ギョカルプのイスラーム論の意義は,①デュルケーム社会学とスーフィズムの融合というイスラーム圏ならではの試みを行ったこと,②社会分化に基づく世俗化論,機能主義的社会統合論,集合的沸騰論,市民宗教論等のアイディアをデュルケームから先駆的に探り当てたこと,③理論と実践のリンクを通じたイスラームの革新を目指したこと,等に見出せる.これら諸点は,デュルケーム受容史に新たな視野と知見を付け加えることになろう.