社会学評論
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農業問題の今日的意味
徳野 貞雄
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1988 年 38 巻 4 号 p. 410-420,494

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抄録
現在の日本農業をめぐる危機的状況は、国家独占資本主義という概念では把握し得ない政治・経済の国際的展開の中で、「産業としての農業」の構造的解体だけに止まらず、「食」の安全性低下や国土保全機能の衰退など、我々の同常生活基盤の掘り崩しにまで拡大してきている。そして、かかる危機は、日本農業の生産性の低効率性と云った経済的構造要因によって発生しているだけでなく、農業の担い手である農家や農協の内部変質やその「農業ビジョン」の無展望性によっても強められている。
一方、経済的な生産機能だけではおさまりきらない農業の多元的機能を、意識的に「農業総体の魅力」として農業経営の戦略的ビジョンに位置づけている農業者も増え始めてきた。そこには、農業労働自体が賃労働 (labor) 的性格よりも、日常生活領域と深くかかわる「仕事」 (work) 的性格を濃厚にもつことを、再認識していこうという姿勢が背景にみられる。
また、消費者も「食」の歪曲化進行の中で、食の主体性を回復させるために、直接農業者との連携を強めていこうとする動きも活発化してきた。そして、生産者と消費者の接点には、単に「産業としての農業」という位置づけではなく、「人間社会の存立基盤としての農業」という生活視点からの農業の再評価が存在する。そして、そこから日本農業の危機的状況に対する突破口を見出そうとする動きが高まっている。
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