社会学評論
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「性 (ジエンダー) と教育」研究の現代的課題
-かくされた「領域」の持続-
天野 正子
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1988 年 39 巻 3 号 p. 266-283,370

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抄録
教育は家族・労働・政治などに比べて、性別による不平等のみえにくい、「平等幻想」の支配の強い領域である。現代社会の学校は、基本的に業績本位のメリトクラティックな制度とみなされている。学校においては生徒や学生は性別にかかわりなく、学業成績や学力によって評価され選抜される。このため、たとえば男性は大学・女性は短大、男性は理工系・女性は文科系という性と高等教育との「系」の存在や、また、高等教育の、女性における社会的地位の表示記号化は、女性自身の自由で主体的な選択ないしは選好の結果とみなされ易い。しかし、そうであろうか。学校教育制度は、社会化機能と同時に、社会的な選抜と配分機能を果たしているが、その機能のなかには、「性役割規範とその非対称性」への社会的期待と、それが生徒・学生に内面化されていくダイナミックな過程がかくされている。その過程で、性別という変数が教育的アウトプットを直接、明示的に規定しているわけではない。それは、かくされた変数であり、両者の間にはさまざまな媒介要因 (スループット) が介在している。そしてそれらの媒介要因についての実証的な研究や分析は、ようやく緒についたばかりである。本稿はこうした視点に立った研究をさらに推し進めるための、基礎作業を試みるものに他ならない。具体的には「教育と平等」研究の視座の変化と、従来ブラック・ボックス視されてきた学校の内部過程に関する諸研究に焦点をあてて、性による不平等生成のかくされたメカニズムを明らかにし、あわせて「性 (ジエンダー) と教育」研究に現代的課題を提示することにしたい。
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