本論は、現代家族を分析する視点および方法に、女性への視点がどのように導入されているかについて、女性の地位あるいはパワーの観点から検討し、今後の家族研究の課題を方向づける試みである。
現代家族への視点は、少なくとも二つの流れに挑戦されている。一つは、現実の世界における家族および女性をめぐる状況の変化とそれに対する家族理論の対応に関するものである。女性の世界は家族であるという規範を前提に成立する家族理論への挑戦は、家族の集団性や両親性といった前提が崩れる程の社会的変化から突き付けられ、特に既婚女性の就労と離婚の増大が、その変化の根幹となっている。もう一つはフェミニスト理論からの挑戦である。家父長制と資本主義の相互作用が男性による女性の支配を構造化する、という論点は、夫婦結合の原理に基づく現代の核家族を過去の家父長支配から解放された平等家族とみなす家族への視点を否定することになる。
家族「理論」の中でも特に国際比較を踏まえた変動論や、夫婦間のパワーを資源や正当性によって説明しようとする資源論・交換論には、家族の個人化や夫婦という支配関係への接近を可能にするものがある。さらに、現代を理解するために必要な縦断的アプローチの成果に期待できると思われる。また社会的平等の観点からの家族への視点も、問題設定の方向付けに貢献するであろう。
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