抄録
肺がんにおける緩和ケアは他のがんと基本的に同じである.ただし,肺がんはがんのなかでも予後が不良で,他のがんよりも疼痛ばかりでなく咳や呼吸困難などの呼吸器症状が伴いやすい.そのため病名告知されるだけでも精神的負担は特に強い.したがって,肺がんにおいて身体的,精神的,社会的およびスピリチュアルな苦痛に対する緩和ケアはきわめて重要であり,早期から緩和ケアを実施することは肺がん患者の延命にもつながる重要な要素である.
肺がん終末期の身体的苦痛として呼吸困難の頻度は高く,臨床的に問題となることも多い.呼吸困難の治療は原因病態に対する治療が第一であるが,複数の原因が絡み合い難治性で不可逆的なことも多い.その呼吸困難に対する薬物治療としてモルヒネは第一選択とされ,日本緩和医療学会の「呼吸器症状の緩和に対するガイドライン」でも推奨されている.しかし,その有効性については一定の見解は得られていないのが実情である.そのことを踏まえて,肺がん終末期医療の実情について,呼吸困難に対するモルヒネ投与を例にとって検討し,さらに非がん性呼吸器疾患に対する終末期医療との比較についても述べる.