2024 年 39 巻 2 号 p. 152-167
日本ではかつて,職人だけでなく多くの人々が身近な資源を用いてものづくりを行い,自ら修理しながら長い期間使い続けていた。しかし,現在ものづくりを行う職人は年々減少し,過去から蓄積されてきた技術,知恵,精神は失われつつある。職人は,生業にしていない人々と同様,身近なその地の自然の資源を使用し,技術を身につけ自らものづくりをしていた。技術を習得するにつれ楽しみに変わる。職人は多様な考え方を保有していることが想像できる。職人はどのような考えに基づいてものづくりをしているのか,その考え方と外部環境との関係は構造的にどのようになっているのだろうか。本研究では,陶芸品職人を事例として職人のものづくりの概念構造をオントロジー工学の手法の一つである行為分解木手法を用いて抽出し,共通の概念構造のモデル化を行った。また,インターネットアンケートにより,共通の概念構造を自らものづくりをしているアンケート回答者がどの程度取得認識しているかを分析し,職人のものづくりの考えやそれらの獲得プロセスを明らかにすることを目的とした。その結果,行為分解木手法により,共通の概念構造を19種類抽出し,モデルを明示化することができた。アンケート結果から,ものづくりの種類や経験年数の違いにより必要とするまたは使用して認識する概念は異なることや,ものづくりの上位の概念やそれを達成するための下位の概念を取得認識する順序も示唆された。