日本デザイン学会研究発表大会概要集
日本デザイン学会 第59回研究発表大会
セッションID: 1-11
会議情報

Th. W. アドルノにおける機能と装飾の弁証法的関係
世利 幸代
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

本論の目的は、哲学者Th.W.アドルノにおける機能と装飾の弁証法的関係を明らかにすることである。アドルノの論考「今日の機能主義」(1965)によれば、装飾を徹底的に排除することで機能美を実現した機能主義の形態は、歴史の中でそれ自身装飾的なものへと転化する。この機能主義の装飾化の問題は、アドルノによれば機能主義が想定した機能と装飾の二分法を要因とする。そもそも近代美学において装飾のあり方を定義したのはカントであった。カントにおいて、装飾は実用品に付随するのみの美として定義され、機能のあり方とは断定的に区別されていた。アドルノは、こうしたカントにおける機能と装飾の定義を批判する。装飾はかつて象徴として自然と交流する機能を果たしていた。それが歴史の進歩によって機能を失い、あとに残された形象が装飾的なものとなる。「昨日機能的であったものは今日その反対物へと転化しうる」。こうしたアドルノにおける機能と装飾の弁証法に従うなら、機能のみを取り出して装飾を排除することはできないだろう。歴史の進歩の中で機能を喪失した機能主義の形態は、その美的形象のみが歴史に残され装飾的なものへと転化すると考えられる。

著者関連情報
© 2012 日本デザイン学会
前の記事 次の記事
feedback
Top