偽造防止策が必要とされる印刷物(以下セキュリティ印刷物)、すなわち紙幣、国債、株券などの有価証券類、または証明書等には、複雑かつ不思議な形態をした幾何学模様が描かれている。この模様を国立印刷局では「彩紋(さいもん)」と呼んでいる。欧米では「ギロッシュ」とも呼ばれている。手書きでは描画不可能な彩紋は、セキュリティ印刷物の固有のデザイン・エレメントとして「偽造防止」と「装飾」という2つの機能を担い、近代紙幣デザインの特質を形作っている。しかし、彩紋がいかにして今日のセキュリティ印刷物のデザイン・エレメントとして定着していったのかは、手掛かりとなる資料に乏しく不明な点が多い。そこで、彩紋の起源とその後の進歩の過程を明らかにし、将来のセキュリティ印刷物が目指すべきデザインの方向性を見出す契機にしたい。