抄録
昭和初期、百貨店を中心に流行した国風デザインの家具装飾は、国粋気運の高まりを反映した「近代的かつ伝統のある日本」を表象するものと理解されているが、これを江戸趣味からの延長としても見ることができる。特に江戸以来の好事家たちは、商品開発において外部の有識者を利用していた初期百貨店の中で大きな影響力を持っていた。彼らの江戸趣味は百貨店の主要顧客であり、文化資本をもたない中間層にとって憧れであり、百貨店ではこの「良い趣味」を手に入れやすい商品として提供していった。それが「風流道具」や「人形玩具」といった商品であり、こうした和風趣味は大衆化・商品化の過程で同時代のモダンとも融合しつつ、極めて通俗的な商品へと変形していく。特に風流道具は大正以降、家具装飾品と美術工芸品の中間領域として、多くの消費者に親しまれていくが、これと同様のデザイン的傾向が国風の家具デザインにも多く見られる。三越で発見された新資料と同時代のカタログや文献を照合させ、昭和初期に顕著になっていく奇妙な和風デザインは、必ずしも国粋に直結したものではなく、消費を介在させた趣味の大衆化の結果でもあった。