抄録
今日のドキュメンタリー等に見られる映像コミュニケーションとは,記録者(後に送り手となる)による映像を用いたフィールドでの調査作業を通じた価値発見の過程が様々な段階において受け手と共有されることを指す場合が多いように思われる。特に「ソーシャル」という語の概念が新たな共同性や公共性を指向する現在,これまで行われてきた「記録」と「発信」をめぐる多様な映像実践が互いに混じり合い,また時に分野領域の垣根を越えてその利活用の目的が重なる傾向も散見される。そのような動向を受け,ここでは2つのソーシャルなデザインプロジェクトを取り上げ,人々の営みを記述するエスノグラフィックな実践が「違いを超えた,個別な,独自性を超えた共感の世界」(映像民俗学者/記録映画監督 姫田忠義)を可視化しつつ,新たな価値創造に貢献するというデザイン活動に接続する今日の映像の在り方について考察する。