人口減少により流通インフラの脆弱化が進む地方では地域資源を分散的に活用することにより、自立した暮らしを形づくっていくことを模索している。青森県は農林水畜産業が広く展開され、自給率115%の地域である。この数字がどういう意味もつか。それは私や住民が日常的に見ている山と海に囲まれた風景は、一次産業を営む人と自然の不安定な支配関係によって形づくられているということだ。この不安定な関係を知ることから、自らが住む地域の持続可能性を考えることができるようになる。しかしながら、近代科学に支えられた今の私たちは、こうした世界を見る目をもち得ていない。
;このような背景から、私はデザイン学生と共に青森県三戸郡新郷村に出向き、山の人びとの営みに加わり、山のある暮らしの話を聞き、学んで視ることから絵本を制作する授業をおこなってみた[注1]。本稿では、人でないものと自然の複雑な相関を内包する山というはかりしれない対象を見ようとする活動が、学生の絵本制作にどのような影響を与えたのかについて考察する。