2022 年 69 巻 2 号 p. 2_11-2_20
本稿は,中国貴州省黔東南苗族トン族自治州榕江県における苗族の伝統的な服飾である「百鳥衣」を対象として,図柄の種類や意味,構造を明らかにしたものである。調査・考察の結果,次の知見を得た。(1)百鳥衣の図柄の種類は,さまざまな動植物,神話,人間,幾何学図柄を含み,そのなかで鳥,魚,龍,鶏が共通の図柄として扱われる場合が多い。(2)百鳥衣の図柄は,意味の観点から,①身の回りの自然界に存在する類型Ⅰ,②身の回りの自然界に存在しかつ古歌・民話にも語られている類型Ⅱ,③苗族の古歌あるいは伝統的民話をもとに創作されたと思われる類型Ⅲの3つに分類される。類型Ⅰの図柄には主に現実世界に存在するもの,類型Ⅱと類型Ⅲの図柄には主に精神世界が象徴されており,百鳥衣には総じて人びとの世界観が如実に反映されている。(3)百鳥衣の図柄を構造の観点からみると、「主図柄・従属図柄・並列図柄」「動物・動物」「動物・植物」の組み合わせや,「雌・雄」の区別,図柄の位置・寸法などに一定の約束事が確認された。苗族の人びとは「主図柄」により精神的な力を強調する一方で,その対比として「従属図柄」は物質的なものを重視している。「百鳥衣」の「上部」は「天上・神」を象徴し,「下部」の裾の位置に「人間」「他界」を表していることがうかがえる。