抄録
教科「情報」がスタートして5年になる。1学年の履修科目とし,そこで学んだことを活かして,他教科の学び合いを深めることを目標に始まった。しかしながら,1学年の履修とした割合が80%を超える県がある一方で,大都市圏を中心として,教科「情報」を3年生の履修とする高校が続出した。2006年度には,教科「情報」を履修した学生が大学に入学してくるとして,多くの大学で,情報の基礎科目の作り直しを行なった。しかしながら,大学の「期待」とは裏腹に,入学してくる学生は,依然として「パソコンを使えるようになりたい」と考えている。教科「情報」の実施によって,学生のスキルの差が一層拡大し,以前に比べてはるかに教え難くなったと言われる。昨年度「発覚」した「未履修問題」を契機として,全国の公立学校の校長会が,教科「情報」を必履修科目から外し,学校で選択できる科目にして欲しいと要望書を提出する事態となっている。新学習指導要領がまもなく公示されることもあり,情報関連学協会では,教科「情報」の必履修科目としての継続に向けてさまざまな働きかけを行なっている。今こそ,これまでの教科「情報」の取組みを冷静に見つめながら課題を明らかにする努力が求められている。本論文では,教科・「情報」の現状を明らかにするとともに,当初の目標の何が実現され,何が実現されないままに進んできてしまったかを見つめる。教科「情報」の真摯な議論にとって大切なことは何なのかを明らかにする。