抄録
本研究では,日本におけるSTS教育の研究・実践の文献を収集し分析を行った。STS教育の研究・実践は1993年に最も多く発表されていた。この90年代前半にSTS教育に関する研究・実践が盛んに行われた背景として,①海外のSTS教育の日本への紹介 ②高校における理科IA科目や総合理科等の導入 ③環境教育の必要性の高まり ④従来の科学教育への批判的な検討 ⑤科学技術社会を構成する市民の育成の必要性 ⑥理科離れへの対策 の6点を抽出した。日本におけるSTS教育の研究・実践の多くは,「学校」における「理科教育」を中心としたもので,理科以外の教科での実践や学校以外の場での実践は少なかった。STS教育の定義・目的は様々で,論者によって幅があったが,科学・技術・社会の相互作用を扱うことを通して意思決定能力や問題解決能力を育成すること,科学の方法や特徴といった科学の性格の理解や,社会における科学の役割や共生的特性といった広義の科学論的理解を目指す教育という点で,おおむねの共通理解が得られていた。STS教育の研究・実践の発表が2000年代以降に減少した理由として,①STS教育の制度化が進まなかった ②「STSを通しての理科教育」と「理科教育におけるSTSの教育」が混在し次第に理科教育に包含された ③STS教育が,将来理科を専門としない生徒へのやさしい科学として認識された ④専門外の内容や生々しい現実を扱う理科教師が少なかった ⑤日本で作られたプログラムや教材が一般化されなかったの5点を挙げた。