抄録
森林の洪水緩和•水源涵養機能の評価や,表層崩壊•土石流による災害発生の予測には,林地斜面における雨水の浸透•流出過程の解明が不可欠である。また,樹木の生長や二酸化炭素固定,森林流域における各種物質の循環や水質形成などの解析においても,斜面土層内の水分状態や水移動が重要なファクターとなっている。これまで土壌物理学分野の研究によって目覚ましく発展してきた,土壌の物理試験手法,野外計測手法,水分移動の数値シミュレーション手法は,林地斜面における雨水の挙動の解析において非常に有用なツールとなっている。本稿では,孔隙構造の解析に基づく森林土壌の保水性•透水性の評価,孔隙構造の違いが雨水の鉛直浸透に与える影響の解析,土壌の撥水性が水文過程に及ぼす影響の観測,パイプ流や基岩浸透流の観測とモデル化など,土壌物理学的手法を森林水文学•砂防学の分野に応用した事例を紹介した。