抄録
1980 年前後は水田の圃場整備の対象が平坦地から傾斜地へと移行していた時期であった。特に,中国四国地方は水田の 56 %が傾斜地に存在し,農業基盤整備が全国と比較して遅れていた。傾斜地水田整備の本格化に先だち,傾斜地水田整備に関する技術的問題を予測した多くの研究が行われたが,実際に整備を行った傾斜地水田においては,平坦地では見られない問題が新たに発生した。その一つとして, 1980 年代前半に圃場整備を行った中国地方中山間地の傾斜地水田では,整備後各耕区内中央部の水稲が過剰生育をおこす現象が見られた。本研究では傾斜地水田の圃場整備に伴う土壌物理性変化と,整備後の地耐力の回復過程を検討した結果,耕区中央部の水稲過剰生育の発生部分では,整備前の旧表土が 60 cmの深さまで堆積していたこと,耕盤が欠落した形となっていたことを明らかにした。また,整備 15 年後においても,耕区の中央部の地盤の地耐力,土色等は,周辺部と異なる状況を示し,水稲の生育むらも完全には解消されないことが明らかとなった。この結果は,傾斜地水田の圃場整備では,当初から基盤造成等を適切に行い農業生産に適した構造物を造ることの重要性を示していると考えられる。