2013 年 35 巻 4 号 p. 312-315
要旨:末梢性顔面神経麻痺および外転神経麻痺を呈した橋被蓋部梗塞の1例を報告する.症例は81歳男性.左末梢性顔面神経麻痺で発症し,当初特発性または糖尿病性顔面神経麻痺と診断された.その後外転神経麻痺を併発し,頭部MRI所見より左橋被蓋部の脳血栓症と診断された.抗血小板剤の投与により外転神経麻痺は消失したが,軽度の顔面神経麻痺が残存した.末梢性顔面神経麻痺の原因は極めて多彩であるが,橋被蓋部の小病変により末梢性顔面神経麻痺を単独または外転神経麻痺と併発し生じうる.症状の程度,優劣は病巣のわずかな偏倚によりいずれの神経核や神経線維が優位に障害されるかによって規定される.末梢性顔面神経麻痺を認めた場合,安易に特発性と診断せず,速やかにMRIによる脳幹病変の評価を含めた病因検索を行い,病因に則した治療を行う必要がある.