2014 年 36 巻 2 号 p. 76-81
要旨:症例は67 歳右利き男性.右前脈絡叢動脈閉塞により外側膝状体近傍に限局した脳梗塞が生じ,左同名半盲,左半側空間無視と構成障害,漢字に強い失書を呈した.失語はみられなかった.過去に外側膝状体を中心とした病巣で半側空間無視が出現した報告は少なく,さらに構成障害と失書も合併したものは1 例のみであった.また,いずれの既報告例においても外側膝状体病変に加えて視床や後頭葉などを含む広範な部位に病変が認められており,本例の損傷領域はより限局していた.SPECT 画像で右後頭葉から頭頂葉の一部にかけて広範囲に血流低下が認められたことより,本例の半側空間無視と構成障害は主に右頭頂葉の機能障害に由来し,失書は主として構成障害に基づくものと考えられた.本例の症候は右前脈絡叢動脈領域の梗塞によるものとして非常に興味深いと思われた.