抄録
覚醒下での脳循環自動調節能について, 特に脳内部位別差異に注目し検討した.覚醒自発呼吸下のWistar ratを正常血圧群 (平均動脈血圧130±5mmHg, n=7), 脱血後の低血圧群I (71±2mmHg, n=8), 低血圧群II (61±4mmHg, n=8), 低血圧群III (51±2mmHg, n=7) の計4群に分け, 脳内25部位での局所脳血流をautoradiography法にて求めた.大脳皮質をはじめとする多くの部位では, 正常血圧群に比し低血圧群で低炭酸ガス血症のため血流の低下を認めたが, 動脈血炭酸ガス分圧がほぼ一定に保たれた低血圧群I~III間においては脳血流はほぼ一定の値を示し, 脳循環自動調節能は維持されていた.しかし, 脳幹部の一部あるいは海馬, 視床下部などでは脳血流はむしろ低血圧II, III群で上昇する傾向を認め, 特に青斑核では推計学的に有意な上昇を認めた.この結果, 以前我々が報告した脳循環自動調節域の血圧下限付近で, 特に脳幹部や海馬で脳血流が逆に一時増加する現象 (predysautoregulatory overshoot of CBF) が覚醒かつ体温や脳温を一定に保持した状態でも存在することが証明された.すなわち本研究により脱血による血圧下降時における脳血流の維持機構が, 脳内の部位により必ずしも一様ではないことが証明された.