脳卒中
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クモ膜下出血後の脳血管攣縮におけるnoradrenergic systemの関与-フサリン酸の効果-
1. 急性実験
田中 耕太郎
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1980 年 2 巻 3 号 p. 269-279

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抄録

[目的] クモ膜下出唾後の脳血管攣縮におけるノルアドレナリン (NA) 作動性神経因子の関与の有無を検討した. [方法] 16匹の成猫を用い, 頭窓法により脳軟膜血管を観察し, 新鮮自家血大槽内注入群と4日間incubateした自家血・髄液等量混合液大槽内注入群にわけ実験的脳血管攣縮を作製した.これに対しドーパミン-β-水酸化酵素の特異的阻害剤であるフサリン酸 (FA) (50mg/kg) 静注の効果を検討した. [結果] (1) 両群ともにFA投与後, 血圧下降とともに脳軟膜動脈は拡張を示し, 投与後30分以降では有意な (p<0.001) 攣縮寛解を認め口径は正常化した. (2) 両側大脳半球皮質, 一側小脳半球皮質で水素クリアランス法により測定した局所脳血流量もほぼ上記動脈と同様の経過を示し, 低下していた血流量はFA投与後著明に改善した. [結論] 新鮮自家血および4日間incubateした自家血・髄液等量混合液による脳血管攣縮にはNA作動性神中経因子, 特にNA作動性神経終末よりのnoごadrenalineの放出尤進の関与が示唆された.
クモ膜下出血 (SAH) 後に生ずる脳血管攣縮は, その予後を著しく悪化させ臨床的に古くから重要な課題となって来た.しかしその病態生理については種々の因子, 即ちserotonin, prostaglandin, oxyhemoglobin, 自律神経因子, 物理的因子, 器質的因子等様々のものが提唱されて来ているが, 未だ確証なく, その治療法も確定されていない.
脳血管には比較的古くからノルアドレナリン作動性神経を含め自律神経線維の密なる分布が認められ, 最近脳血流の自動調節に重要な役割を果たしている事が明らかとなって来た.一方, SAH後に種々の点でノルアドレナリン作動性神経系の活動亢進が認められる事が臨床的に注目されている.そこでSAH後の脳血管攣縮におけるノルアドレナリン作動性神経系の関与を調べ,かつその治療への応用の可能性を検討する目的で,猫の実験的SAHにおける血管攣縮に対して, noradrenaline合成酵素dopamine-β-hydroxylaseの特異的阻害剤であるフサリン酸 (5-butylpicolinic acid) を投与し, その効果を脳軟膜動脈口径と局所脳血流量の二面より観察した.
本論文では大槽内に新鮮自家血または4日間 incubateした自家血・髄液等量混合液注入後の血管攣縮に対する急性実験の成績を報告する.慢性実験については別に述べる予定である.

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© 一般社団法人 日本脳卒中学会
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