抄録
[目的] 実験的クモ膜下出血 (SAH) 後の晩期血管攣縮についてノルアドレナリン作動性神経因子の関与の有無を検討した. [方法] 20匹の成猫を用い新鮮血大槽内注入により実験的SAHを作製し, 頭窓法による脳軟膜血管口径および水素法による脳血流量測定を行なった.SAH 3日後 (実験1) およびSAH 7日後 (実験2) に, ドーパミン-β-水酸化酵素の特異的阻害剤であるフサリン酸 (FA) (50mg/kg) 静注の効果を検討した. [結果] (1) 実験1. SAH 3日後, FA静注により脳血管は拡張したが, その程度は対照群に比しより高度であった. (2) 実験2. SAH当日に認められた血管攣縮は一旦軽度寛解後, 4日後には進行し7日後には-25.8~-30.9% (P<0.02~0.005) の著明な口径縮小を認めた.FA静注によりこの攣縮は明らかに寛解し90分後には完全に消失した.脳血流量もFA静注後, 明らかな回復を示した. [結論] 晩期血管攣縮にノルアドレナリン作動性神中経因子の関与が示唆された.
猫の急性実験において,新鮮自家血および4日間37℃でincubateした自家血・髄液等量混合液大槽内注入後に認められた脳血管攣縮に対し, noradrenaline合成酵素であるdopamine-β-hydmoxylaseの特異的阻害剤であるフサリン酸が, 著明な攣縮寛解効果を示す事は既に報告した.この報告によりクモ膜下出血後の脳血管攣縮にノルアドレナリン作動性神経終末からのnoradrenalineの放出亢進が関与している事が示唆された.しかし臨床的に重要な,いわゆる晩期血管攣縮については, クモ膜下出血後に生体内に起る各種の要因について考慮する必要がある.例えばクモ膜下出血後1週目の後半より臨床的にdenervation hypersensitivityが認められる事, 尿中noradrenalineがクモ膜下出血後重症例で2~3週目に高値を示す事, 実験的に3日間クモ膜下出血にさらされていた脳底動脈ではin vitro でnoradrenalineに対する感受性が亢進している事, 更には脳血管壁の器質的変化の発生等が報告されている.当然ながら急性実験ではこれらの因子は考慮されていない.本論文の目的は臨床的により近い状態の, 慢性実験によって, 晩期血管攣縮におけるノルアドレナリン作動性神経系の関与の有無を調べることにある.