抄録
インフルエンザウイルスのゲノムは8本に分節化したマイナス極性1本鎖RNAであり,ゲノムはウイルス由来のRNA依存性RNAポリメラーゼとヌクレオプロテイン(NP)との複合体として存在し,機能している.しかし,それだけでは十分な反応は支えられない.効率の良い転写と複製には,それらの反応の場である感染細胞の核に存在する宿主の機能が必要である.多くのウイルスの場合と同様に,インフルエンザウイルスでもレセプターとプロテアーゼが感染と病原性発現を規定する重要な宿主要因である.しかし,トリインフルエンザウイルスがPB2内の変異により宿主域を変化させている可能性が議論されているように,複製と転写に関わる要因が宿主域選択に重要な関わりを持っている場合もある.最近までに明らかになってきたインフルエンザウイルスゲノムの複製・転写機構を概観するとともに,インフルエンザウイルスのゲノム機能に関わる宿主因子について述べ,これらと宿主域の関連について議論する.