ウイルス
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56 巻, 1 号
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総説
  • 植松 智, 審良 静男
    2006 年 56 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     Toll-like receptors(TLRs)は自然免疫における重要な分子で,様々な病原体においてよく保存された構造を認識して自然免疫応答を誘導する.ある種のTLRはウイルス構成成分を認識してI型インターフェロンを誘導することによって抗ウイルス応答を誘導する.TLR2やTLR4が細胞表面においてウイルス構成成分を認識するのに対し,TLR3,TLR7,TLR8,TLR9はエンドソームによく発現している.ファゴサイトーシスによってウイルスやウイルスに感染してアポトーシスを起こした細胞を取り込むと,ウイルスの核酸がファゴソーム内で遊離しこれらのTLRによって認識される.最近,宿主は細胞質内でTLR非依存的に複製するウイルスを認識する機構を持つことが報告された.今回,我々は自然免疫によるウイルス認識とシグナル伝達経路について概説する.
  • 森川 裕子
    2006 年 56 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     大腸菌が原核細胞のモデルであるように,酵母は真核細胞のモデルとしてしばしば用いられる.古くから酵母は詳細に解析され,近年そのゲノムも完全解読された.高等真核細胞との類似性が高くかつ分子遺伝学や分子生物学の解析手法が応用できることから,酵母は真核細胞のモデル細胞として多用されている.こうした酵母細胞で動物ウイルスの複製が再現できることが近年明らかとなってきた.本稿では,酵母の遺伝子発現と酵母における動物ウイルスの複製を概説する.特筆すべきは,酵母における完全なウイルス複製過程の成立と酵母を用いたウイルス様粒子ワクチンの製造である.酵母を用いた近年の研究は,ウイルス複製に関与する宿主因子や宿主機構の同定を中心に展開されており,それらは酵母遺伝学の利用や酵母の全遺伝子破壊株ライブラリを用いた網羅的解析によって推進されている.
  • カプシド蛋白はPML核体でウイルス粒子を形成する
    宍戸-原 由紀子
    2006 年 56 巻 1 号 p. 17-25
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     ヒトポリオーマウイルスJC(JCV)は,重篤な脱髄脳症である進行性多巣性白質脳症の原因ウイルスで,感染した希突起膠細胞(oligodendroglia)に核内ウイルス封入体を形成する.JCVの粒子外殻は,360分子のメジャーカプシド蛋白VP1と,マイナーカプシド蛋白VP2,VP3が一定の割合で会合して形成すると推定される.しかし,カプシド蛋白の発現制御機序や,核移行,ウイルス封入体形成の過程には不明な点が多かった.近年我々は,JCV粒子形成機序について,次のことを明らかにした.即ち,(i)メジャーカプシド蛋白とマイナーカプシド蛋白は,選択的スプライシングにより発現比が制御されたmRNAから合成される,(ii)メジャーカプシド蛋白とマイナーカプシド蛋白のmRNAはpolycistronicで,両カプシド蛋白の翻訳は制御蛋白agnoproteinの下流で行われる,(iii)メジャーカプシド蛋白とマイナーカプシド蛋白は共同して核に移行し,PML核体と呼ばれるドット状の核内構造に集積する,(iv)PML核体ではJCVゲノム複製と粒子形成が連動し,効率の良いウイルス複製が行われると考えられる.PML核体は,宿主細胞の重要な核機能の発現の場である.JCV感染の標的がPML核体であることは,核内ウイルス封入体形成後の細胞変性機序の解明にも寄与するところが大きい.
特集1
  • 大野 真治, 柳 雄介
    2006 年 56 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     麻疹ウイルスは,パラミクソウイルス科モルビリウイルス属のウイルスである.病原性を持つ麻疹ウイルスは,ヒトのSignaling Lymphocyte Activating Molecule(SLAM)をレセプターとして利用する.SLAMは未熟胸腺細胞,活性化リンパ球や成熟樹状細胞などの免疫系細胞に主に発現しており,麻疹ウイルスのリンパ組織指向性とよく一致する.一方,ワクチン株などの実験室株はH蛋白のアミノ酸に変化が生じることによりSLAMのほかにCD46をレセプターとして利用できるようになっている.また,SLAMやCD46以外にも麻疹ウイルスのレセプターが存在することを示唆する報告がなされている.本稿では,麻疹ウイルスレセプターとトロピズムおよび培養細胞への馴化のメカニズムについて論じる.
  • 石川 雅之
    2006 年 56 巻 1 号 p. 35-40
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     真核生物を宿主とするプラス鎖 RNA ウイルスゲノムの複製は膜に結合した複製複合体の中で起こる.複製複合体の形成過程と構造に関する情報は未だ乏しく,関与する宿主因子さえ十分に明らかになっていない.そのような状況のもと,我々はトバモウイルスをモデルとして,真核生物プラス鎖 RNAウイルスのゲノム複製機構を理解することを目指している.本稿では,現在我々が進めている研究の方向性と,そのアプローチのために確立した実験系を紹介する.
  • 増田 貴夫
    2006 年 56 巻 1 号 p. 41-50
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     ウイルスと宿主の攻防は,個々の細胞内においても存在している.ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)はウイルス粒子内のRNAゲノムをDNAに逆転写し,宿主染色体に組み込むことで感染を成立させる.近年,HIV-1のゲノムおよびその複合体に作用し,ウイルス感染を阻害する宿主抵抗性因子(APOBEC3G, TRIM5α)の存在が明らかにされた.さらに,HIV-1のゲノムの最終目的地である染色体は細胞内では核膜に守られている.HIV-1はこうした宿主細胞内に存在する数々の障壁をクリアーして感染を成立させている.本稿では,HIV-1感染成立に向けたウイルスゲノムの脱殻,逆転写,核内輸送,組み込みといった一連のウイルスゲノム動態を制御する宿主因子群に関して概説し,特にHIV-1ゲノムの組み込みを触媒するインテグラーゼおよびプレインテグレーション複合体と相互作用する宿主因子群に関する最近の知見をまとめてみたい.
  • ~個体から細胞まで~
    大岡 静衣
    2006 年 56 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     ポリオウイルス(PV)のヒトにおける主要な経路には,PVが経口で取り込まれた後ウイルス血症を経て血液脳関門を越え中枢神経系内へ侵入する経路と,骨格筋へ投射している神経軸索を介してPVが直接中枢神経系内へ侵入する神経経路が知られている.ヒトにおいてはPV経口感染が成立するが,経口感染が成立する動物モデル系は見いだされていなかった.我々は,1型インターフェロン(IFN)受容体遺伝子欠損ヒトPV受容体(hPVR/CD155)発現トランスジェニック(Tg)マウスにおいて経口感染が成立する系を確立した.また,IFN受容体遺伝子が欠損していないCD155発現Tgマウスにおいても経口感染が成立するPV変異株を分離した.ウイルス血症後,PVが血液脳関門を透過する機構を解析したところ,トランスフェリンの血液脳関門トランスサイトーシス経路と共通した機構を利用してPVが血液脳関門をトランスサイトーシスされている可能性が示唆された.一方,PVの神経経路については,運動神経初代培養細胞において,PVがCD155と同一小胞で逆行性輸送され,その輸送系には細胞質ダイニンが関与していることを証明することができた.
  • -Endersへの回答-
    小池 智
    2006 年 56 巻 1 号 p. 59-66
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     ポリオウイルスは急性灰白髄炎のウイルスであり,脊髄前角の運動神経細胞など中枢神経系に感染して重篤な病変を生じさせるが,神経系以外の組織ではよく増えることができない.in vivoでは厳格にこの組織特異性が存在するにも関わらず,in vitroでは霊長類の単層培養細胞ではどの組織に由来したものであれ殆ど例外なくポリオウイルスは非常によく増殖する.細胞がウイルス感受性を獲得するには生体内からシャーレへ環境変化の過程で,なんらかの細胞内環境が変化することが必要であると考えられていた.この疑問は永らく未解決のままであったが,我々は正常の生体内の状態で維持されている素速く,かつ強力なIFNの応答能力が培養細胞においては低下するためウイルス感受性を獲得するようになることを明らかにした.
特集2
  • 安井 良則, 岡部 信彦
    2006 年 56 巻 1 号 p. 67-75
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     2004/2005年シーズン,2005/2006年シーズンのインフルエンザの流行状況の解析を行った.2004/2005年シーズンの流行開始は遅く,ピークも第9週と例年よりも遅れたが,その流行規模は非常に大きく,推定患者発生数は1770万人であり,B型インフルエンザウイルスが流行の中心であった.2005/2006年シーズン(2006年第12週まで)は第50週と比較的早くにインフルエンザの流行が始まり,そのピークは例年と同様第4週であった.流行の主流はAH3型であった.
     H5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスの鳥またはヒトへの感染はアジアからアフリカ,ヨーロッパにまで広がってきている.新たな変異インフルエンザウイルスの発生阻止,ヒト-ヒト感染の伝播及び拡大防止,感染の封じ込め等の目的のためには,全国の自治体及び公衆衛生機関による迅速で統一された積極的疫学調査の実施が必要不可欠である.積極的疫学調査の目的には,感染拡大防止,感染源・感染経路・感染危険因子の特定,感染リスクの評価,新たなインフルエンザウイルスの早期発見及び封じ込め,等がある.
  • 小田切 孝人
    2006 年 56 巻 1 号 p. 77-84
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     高病原性H5N1鳥インフルエンザは発生から2年が経過した現在では,東南アジア諸国のみならずユーラシア大陸を西に向けて拡大し,中近東,アフリカ,ヨーロッパ諸国にまで到達し,膨大な数の家禽が失われ大きな経済被害を出している.その間,ヒトへの感染例も増え続け200例を超える感染者が確認され,致死率は55%となっている.流行拡大の一因として渡り鳥が関与していることから,もはや封じ込めは不可能である.そのためH5N1ウイルスに起因したパンデミックが危惧され,ヒトーヒト感染が本格的に始まるフェーズ4になる前に,できる限りの準備が必要である.わが国においては新型インフルエンザ対策として迅速診断キットの開発,遺伝子診断系の改良,新型ワクチンの実用化などの研究開発が進められている.一方,H5N1鳥インフルエンザの発生している発展途上国に対しては,感染診断系の構築のための技術援助が必要で,先進諸国からの公衆衛生上の対応を優先させた国際支援が求められている.
  • 新矢 恭子, 河岡 義裕
    2006 年 56 巻 1 号 p. 85-89
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     H5N1鳥インフルエンザウイルスがアジア,ヨーロッパ,そしてアフリカで猛威を振るっている.すでに,100人を越える人が本ウイルスに感染し死亡したが,ヒト‐ヒト間の伝播はまれである.私たちは,人の呼吸細気管支,肺胞細胞の多くが鳥由来インフルエンザウイルスによって認識されるシアリルオリゴ糖(SAα2,3Gal)を発現していることを見出した.しかし,人の上部気道の上皮細胞では,鼻粘膜の一部の細胞をのぞいて,人由来ウイルスによって認識されるSAα2,6Galしか発現していないことがわかった.これらの事実は,なぜ鳥インフルエンザウイルスが鳥類からヒトに直接感染し,感染患者において重篤な下部呼吸器障害を引き起こすことができるかを説明している.また,ヒトの上部気道には,人のウイルスのレセプター(SAα2,6Gal)はたくさん存在するが,トリウイルスのレセプター(SAα2,3Gal)はほとんど存在しないことは,H5N1ウイルスが,めったにヒト‐ヒト間伝播を引き起こさない事実と一致している.しかしながら,H5N1ウイルスの中には人ウイルスのレセプターを認識するものも存在する.したがって,H5N1インフルエンザウイルスが効率よくヒト‐ヒト間で伝播する能力を獲得するためには,レセプター特異性の変化のみならず,それ以外の変異が生じる必要があるのであろう.
  • 中島 捷久, 信沢 枝里, 中島 節子
    2006 年 56 巻 1 号 p. 91-98
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     抗原変異を可能にするアミノ酸変異のありかたそのものを実験的に検討し,HA蛋白質の構造と機能の関係を明らかするため1アミノ酸変異のタンパク質に及ぼす影響を網羅的に解析した(変異の基盤構造).またアミノ酸変化が加算したことによって基盤構造そのものが変化するが,それがどのような変化なのかを解析した.その成果として1)ランダムに1アミノ酸変異がおこった場合許容される変異は約50%である.2)アミノ酸変異のHA機能に関する影響はアミノ酸の種類よりは,変異部位に依存している確立は78%である.3)アミノ酸一個が付加されるたびに基準HAで許容されていたアミノ酸変異は0.5%の確率で非許容になり,逆に0.5%の確率で非許容変異が許容変異となる.
    4)HAタンパク質はアミノ酸変異の付加によって不可逆的,かつ加算的に構造変化をおこすこと.が明らかになった.
  • 川口 敦史, 永田 恭介
    2006 年 56 巻 1 号 p. 99-108
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     インフルエンザウイルスのゲノムは8本に分節化したマイナス極性1本鎖RNAであり,ゲノムはウイルス由来のRNA依存性RNAポリメラーゼとヌクレオプロテイン(NP)との複合体として存在し,機能している.しかし,それだけでは十分な反応は支えられない.効率の良い転写と複製には,それらの反応の場である感染細胞の核に存在する宿主の機能が必要である.多くのウイルスの場合と同様に,インフルエンザウイルスでもレセプターとプロテアーゼが感染と病原性発現を規定する重要な宿主要因である.しかし,トリインフルエンザウイルスがPB2内の変異により宿主域を変化させている可能性が議論されているように,複製と転写に関わる要因が宿主域選択に重要な関わりを持っている場合もある.最近までに明らかになってきたインフルエンザウイルスゲノムの複製・転写機構を概観するとともに,インフルエンザウイルスのゲノム機能に関わる宿主因子について述べ,これらと宿主域の関連について議論する.
  • -臨床症例のウイルス排泄からの考察-
    三田村 敬子, 菅谷 憲夫
    2006 年 56 巻 1 号 p. 109-116
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/13
    ジャーナル フリー
     小児のインフルエンザの自然経過では,発病前から発病後1~2週間までウイルスが分離される.迅速診断キットの判定には103pfu以上のウイルス量が必要であり,検体のウイルス量を考慮した判断が必要である.抗インフルエンザ薬投与後,ウイルス量は徐々に減少するが,小児では解熱時もなお半数以上の症例がウイルス分離陽性であり,一定の率で耐性が生じている.感染対策のうえで,このようなウイルス排泄と薬剤耐性の評価が重要である.
平成17年杉浦賞論文
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